大会アピール

 

第4回東京大会長 太田 秀樹(全国世話人)

 

 大航海時代、船員たちの間で恐れられていた壊血病が、ライムジュースで予防、治療できることをオーストリアの軍医が報告した。1720年のことであるが、壊血病がビタミンC欠乏によって引き起こされ、ライムジュースにビタミンCが豊富に含まれていることが発見されたのは、それから200年近くを経た20世紀初頭である。そしてこの僅か100年の間に医学のめまぐるしい進歩は、心臓移植を可能とし、遺伝子を操作して生命をコントロールするに至り、市民の医学に対する信頼は、妄想のように大きく膨らんでいくことになる。ところが科学的であるという合理性だけでは、けっして解決できない多くの問題が現在の医療に内包されており、これが一部の医療不信にも繁がっている。

 新鮮な果物や野菜を食べることにより、薬物としてビタミンCを服用することが重要視される風潮は、当たり前の食事より薬物投与を優先する医療を産んだ。鬱状態の高齢者の心を開かせるのは、人であり抗鬱剤ではないはずだ。本来暮らしのなかにあった医療がいつの間にか一人歩きし、もしかしたら医療の都合で幸せな暮らしが失われているのではないかと思わざる場面に出くわすことが少なくない。

 例えば癌の末期と診断された患者さんまでもが、限られた人生を点滴を受けながら病院のベッドで過ごし、天井を見つめながら、生命を閉じている。人生の終焉としてはたしてふさわしいのであろうか。

 もはや治療の妥当性は生命の量で推しはかるべきでなく、生命の質が、その物差しとなる時代が到来したと考えられる。生命の質、即ち生活の質を損なわない医療の実践こそが、在宅ケアそのものである。そしていよいよ来年から施行される介護保険制度は、在宅ケア推進のために創設されたといっても過言では無かろう。

 ご存知のように介護保険制度制定には紆余曲折あり、さまざまな矛盾を抱えてスタートとなりそうであるが、我が国の医療・福祉の新たな方向性が明確に示されたことは評価に値する。

 ネットワーク創設時より基本的理念として掲げていた生活を見据え、チーム医療の実践から、コミュニティー全体でクライアントを支えようという在宅ケアが、介護保険制度にしっかり裏打ちされたこととなる。黎明期には孤軍奮闘し、あまりにも個別的であった取り組みは、制度化により市民に支持され、市民権を得て、まさに地域医療のスタンダードとならんとする力強さを秘めてきた。

 本大会のメインテーマの中で謳われている世紀末の診療所とは、新世紀の診療所イメージを描く礎(いしずえ)となると思われる。ケアチームの一員としてコーディネートされる医師とさまざまな医療・福祉専門職が、行政や民間の在宅サービス事業者らと絶妙な連携をとって繰り広げられる在宅ケアを通して、我が国の医療不信を払拭し、何時でも、誰でも、何処ででも、質の高い在宅ケアが受けられる社会を目指して、われわれは邁進する所存である。

 本大会にご参加の皆様方のさらなるご支持、ご支援、ご協力をお願いする次第である。